スウェーデン・マルメの視察ツアーに参加しました
デンマークの視察と合わせて、環境先進国として有名なスウェーデンのマルメにも行ってきました。
今回の視察で案内してくれたのは、One Planet Café共同創設者でサステナビリティ・プロデューサーの ペオ・エクベリさん。環境NGOの活動やジャーナリストとしての経験を持ち、70カ国以上を巡ってきた方です。日本企業や自治体の視察を長年支援しておられます。
そんなペオさんとサスティナブルシティ、マルメを巡りました。
欧州初のカーボンニュートラルな街マルメ
デンマーク・コペンハーゲンから電車でわずか40分。海を渡った対岸に位置するスウェーデン第3の都市マルメは、かつて造船業で栄えた一方、深刻な大気汚染に悩まされていた街でした。
しかし、造船業が衰退した1990年代を境に「サステナビリティを先導する都市へ生まれ変わる」という壮大な目標を掲げ、再生可能エネルギーや環境教育に力を入れ続けた結果、現在では EUで初めてカーボンニュートラルを達成した街として世界から注目を集めています。
海は人が泳げるほどに回復し、街には緑があふれ、空気は澄んでいる。実際に降り立った瞬間、空気の綺麗さを感じられるほどでした。
宿泊したホテルは1800年代から続く歴史ある「スカンディックホテル」。スウェーデン最大のホテルチェーンであり、世界初の環境ラベル“スワンマーク”認定のホテルです。客室内のゴミ箱は細かく分別され、街中だけでなくホテルでも環境への配慮が徹底されていました。

宿泊したスカンディックホテル

客室のゴミ箱も分別がしっかりとされている
マルメ市内でみた“サスティナブルな暮らし動き”
EVバスと自転車がつくる静けさ
マルメでまず感じたのは、市内に広がる静かで落ち着いた雰囲気です。
市内を走るバスはEV車であり、振動や騒音が少ないため、街歩きがとても快適でした。バスがEV車になったことで、運転手の身体への負担が減っているという話も伺い、環境配慮が働く人の負担軽減にもつながっている点が興味深いところでした。
自転車の利用率も高く、レンタサイクルが広く普及しています。年間契約が手頃な価格で、自家用車を持たずに生活できる仕組みが整備されています。

街中にたくさん設置されているレンタサイクル
“選択できる環境配慮”を示すマックスバーガー
昼食で訪れたハンバーガー店「マックスバーガー」では、各メニューにCO₂排出量が記載されていました。 環境負荷を可視化することで、利用者自身が自然と環境にやさしい選択ができる仕組みです。
行動を強制するのではなく、「気づきと選択」を促すアプローチが素晴らしいと思いました。
このような考え方は、健康づくりや福祉の現場で必要とされる“行動変容を支える環境づくり”にも通じていると感じました。

注文画面にCO₂排出量が表示されてある
「イエローチェア」が促す対話
市内の数カ所に置かれた黄色いベンチには「精神疾患は誰にでも起こりうることです。あなたはひとりではありません。」と書かれています。
このベンチに座ることで、誰かが声をかけてくれるきっかけになる仕掛けです。
これはマルメ市民の声から実現したものであり、街の中に自然な対話の場をつくり、孤立を減らす工夫としてユニークで興味深い取り組みでした。
環境と暮らしが自然に寄り添う街—ヴェストラ・ハムネン
欧州初のカーボンニュートラルを達成した街、ヴェストラ・ハムネンは、かつて工業地帯だったとは思えないほど、心地よい空気が流れていました。再生可能エネルギー100%で暮らしが成り立つこの街では、環境への配慮が決して特別な取り組みではなく、暮らしの中に自然と溶け込んでいるようでした。
ヴェストラ・ハムネンの象徴としてひときわ存在感を放っているのが Turning Torso(ターニング・トルソ) です。かつて造船の街として栄えたマルメが、サステナブルシティへと生まれ変わり、世界へ向けて新たな姿を示す象徴として建設された建物です。
街を歩いていると、どの場所からでもターニング・トルソの姿が目に入り、まさに、この地域の変革と未来を象徴するランドマークといえる存在でした。

街のシンボル”ターニングトルソ”
“ごみは資源”という考えが根付く街の仕組み
街ではゴミを“廃棄物”として扱うのではなく、“資源”として循環させる仕組みが徹底されています。
生ゴミや可燃ゴミは、街中に設置されている鍵付きのごみ収集器から地下のパイプへと吸引され、自動的に中央処理場へ運ばれます。そこでバイオガスなどのエネルギーへ転換され、街中で使用されています。そのため、騒音や悪臭がほとんどなく、住環境を損なわないまま循環が成立している点は、実際に歩いていても快適でした。
さらに、スウェーデンでは幼い頃から「地上にあるものは再生できる資源、地下にあるものは再生できない資源」という考え方を土台に、環境教育が行われています。
そのため、分別は義務ではなく“暮らしを守るための自然な行為”として受け止められ、浸透していることも、循環型社会の土台となっていると感じました。
環境にやさしい仕組みが、生活者のストレスを減らし、街の清潔さや安心感にもつながっている点は、広い意味で人の健康や福祉にも影響を与えているように思います。

住民が利用できる鍵付きのごみ収集器
サスティナブルを支える生物多様性を育む街
街のあちこちには、生き物が安心して過ごせるように整えられたビオトープが点在し、水辺や草地、岩場など小さな生態系が丁寧に再現されています。また、昆虫の生息地を守るためのビーホテル(人工巣)も複数設置されており、昆虫や小動物が街の中で共存できる環境づくりが進められています。

小鳥が水を飲むことができるよう設計されたビオトープ

ハチなどの昆虫などのためのビーホテル
街の価値観:新スウェーデン人と「4枚の肌」の思想
この街づくりの背景には、多様性を前向きに受け入れる文化と、自然素材を大切にする独自の思想があります。人口の約3分の1が移民であるマルメでは、”多様性は可能性である”という価値観から移民を外国人ではなく「新スウェーデン人」と呼んでいます。また、都市設計には「Four Skin(4枚の肌)」という考え方があり、人の肌・服・家・街の緑を“呼吸できる状態”に保つことが大切にされています。
木材やレンガ、豊かな緑を取り入れた設計は、人にも自然にも無理がないまちづくりにつながっています。
こうした人にも自然にも行う配慮が、生物多様性となりこの姿勢が持続可能な暮らしーサスティナビリティにつながっていくのだと感じました。
マルメから日本の未来へ
今回の視察で、ペオさんが語っていた「サステナビリティにシビアになりすぎず、より快適に、より楽しく暮らすことが大切」という言葉がとても印象に残りました。
実際に街を歩くと、マルメではサステナビリティが“義務”や“我慢”としてではなく、暮らしを豊かにし、人が健やかに過ごすための文化として根づいていると感じました。
EVバスが静かに走る街並み、緑地が途切れず続く環境、ゴミを資源として循環させる仕組み、そして街じゅうに息づく生物多様性。
どの取り組みも「環境に良いこと」と「人に優しいこと」が自然に重なり合い、無理なく続けられる形で街の中に溶け込んでいました。この“ちょうど良いバランス”こそが、持続可能な社会のヒントだと感じました。
マルメの取り組みは、「持続可能な社会とは、人が無理なく、安心して暮らせる社会である」という、とてもシンプルな原点を思い出させてくれました。
マルメの“心地よいサステナビリティ”の姿は、日本の地域づくりや、これからの医療・福祉のあり方を考えるうえでも、多くの学びを得られる視察となりました。
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