更年期について知っておいてほしいこと
2024年に経済産業省がまとめた報告によると、月経や更年期、婦人科がんなどの女性特有の健康課題による経済的損失は、年間3兆3740億円にも上るそうです。その中でも、最も経済的損失額が大きいのが更年期症状による損失で、年間1兆8700億円ということです。
ホットフラッシュ、イライラ、落ち込み、倦怠感、疲れが抜けない、眠れないなど症状は実に多様です。ゆえにどうしてもネガティブなこととして語られる更年期。しかし、誰もが思春期を経て大人になったように、更年期という時期も誰でも経験する自然の摂理なのです。
更年期という時期は、約10年。とても長いですね。厄介でネガティブな10年と捉えて過ごすも、貴重な人生の一部と捉えても過ごすも10年。やみくもに恐れてネガティブなものと決めつけず、この自然なからだの変化と反応に意識を向けながら、うまく付き合っていけたら良いですね。
なんて綺麗事に聞こえるかもしれませんが、これは毎日多くの更年期症状の患者さんと接している中で、私が患者さん(人生の先輩)から教わったことです。
そこで今回は、私が先輩女性達から教わったことを皆さんにもシェアしたいと思います。
目次
「わたし」の捉え直し~わたしの振り返り、そして新しいわたしとの出会いと受容~
以前、更年期症状として耳鳴りに困っている方にお会いしました。高齢出産で授かったお子さんとご夫婦の仲良し家族でした。
しかし、いつまで続くかわからない耳鳴りの不安とストレスから気持ちに余裕がもてず、イライラすることが多くなり、大好きな家族とのコミュニケーションに支障が出ることが何よりも辛いとのことでした。通院するその方とお話を重ねるなかで、こんなことを話してくださいました。
「考えてみたら私、これまでずっと健康で元気だったんです。ありがたいことに人間関係にも恵まれていたし、性格的にもあまり悩まない方なので、明るく元気なのが私でした。でも、こんなに弱くて病気みたいな私もいたんだ…って思ったんです」と。また別の日には、「いつまでも小さい息子と思っていたけれど、体調の悪い私を気遣い手伝ってくれるのです。成長しているのだなと実感しました」「母として妻として、家族のためにできることはしてあげたいと思ってきたけれど、してもらうことも大事なんだと思いました」と話してくださいました。
更年期は、ちょうど人生の折り返し地点。この時期の女性は、母、妻、娘、仕事など様々な立場を何役もこなし、それぞれの役割を一生懸命に果たそうと頑張っています。そんな毎日をこなす日々は、自分は「どうしたいか」よりも「何をしなければいけないか」を基準に行動することが多く、つい自分の気持ちは後回しになってしまいます。
更年期があることで、私たちは少し立ち止まって、自分の体や心に意識を向ける機会を作れるのかもしれません。
家族や友人、職場の人など、誰かの心は大切にしなければといつも意識していますが、自分の心こそ、よほど意識を向けなければ、ついケアが疎かになってしまいがちですから。
「楽」を選んでいい~先入観や固定概念からの解放~
勤勉でまじめと言われる日本人ですが、私たちは無意識に決して事実ではない思い込みの鎖で自分を縛っていることが意外と多いのかもしれません。
「更年期で辛くても、母として頑張らなくては」「更年期を理由に仕事ができないのは甘え」「こんな自分では迷惑になる」「薬に頼ってはいけない」「このくらいのことで受診してはいけない」「弱くてはいけない、強くあらねば」などなど。
近年、女性に関する社会の認識を見直す動きが進んでいますが、そもそも自分自身は思い込みの役割やルールで自分を生きにくくしていないでしょうか。
以前、こんな方がいらっしゃいました。辛い更年期症状で受診され、治療方法について大変悩まれた末に「ホルモン治療は怖いのでやりません」と診察室を出ました。
ところが数日後、再度受診し、「やっぱりホルモン補充をしたい」と言うのです。
聞けば、職場で婦人科を受診した話をすると、同年代の女性がホルモン補充療法をしていることが分かったそう。同年代なのに、いつも元気で更年期症状もなさそうで羨ましいなと思っていた同僚が、実はホルモン補充療法を行っていたのだそうです。
診察室で「なんだかバカバカしいと思ってしまって。せっかく子育ても終わって、やっと自由にできるのに体調悪いなんてもったいない。どうせならやりたいことやって、おいしく食べて笑っていたいもん!」と。少し照れたように笑うその方の笑顔は、とても清々しく素敵だなと感じました。
やらなければいけないことがたくさんの毎日。「あれもしなきゃ」「これもしなきゃ」「こうしなくちゃ」と、やること探しを一度ストップし「やらなくてもいいこと探し」はいかがでしょう。
更年期症状と丸腰で戦うことも、やらなくていいことの一つかもしれません。
更年期の意味を考える
辞書によると、更年期の「更」は「新しいものと入れかわる」という意味だそうです。
産むか産まないかという意思の話はさておき、私たち女性は、思春期に初経を迎えた時から閉経まで、子宮と卵巣は生殖の役目を果たすべく働き続けてきました。閉経によりその役目を終え、長い人生の後半戦へと入っていくわけです。
この大きな転換期に、ありがたいことに10年もの移行期間が設けられているのです。
更年期の様々な症状を通して自分自身を見つめ直し、生活習慣や物事の捉え方、人間関係上の癖など、この先の人生をより心地よく健康に生きるためのヒントを教えてくれる。
それが更年期だと思うと向き合い方も変わるのではないでしょうか。
前の記事へ